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2011年奈良(3)-藤ノ木古墳・法隆寺・中宮寺 [寺・仏像など]

翌日はJRで法隆寺へ行くことに。
JR奈良駅が見違えるといいますか、まったく別の近代的な駅になっていたので、
ひとりワーワー大騒ぎしてしまいました。
かつての懐かしい駅舎は、高架となった線路と切り離されて残っていましたが、
そのまま保存されるのでしょうか。

法隆寺駅からはタクシーを覚悟していましたが、ちょうどシャトルバスに乗れました。
降りて門まで歩くわずかな間に、非常に熱心にビラを配っている女性が。
その様子から、明らかに物販や宗教的な勧誘とは違う気がしたので、
なんとなくビラを手に取ると・・・

「藤ノ木古墳 石室特別公開」

え!?なんですって!?
聞けば毎年春と秋に公開しているそうですが、
今年は震災のため春は中止、秋はこの5日、6日の二日間だけとのことです。
まさに千載一遇、天からの棚から牡丹餅。
「古墳に入れるなんて、めったにないのよ!」
と、子供を引きずる様にして行ってみました。


法隆寺を最後に訪ねたのが何年前だったのかどうしても思い出せないのですが、
おそらく、5,6年・・・もう少し前でしょうか。
帰りに利用したタクシーの運転手さんが、
近いからと藤ノ木古墳を経由してくれたことがありました。
その時は狭い民家の間を走り、ここだよと教えていただいても、
他の小さな古墳同様、森の様なものが見えるだけだった気がします。

ところが、今回は法隆寺の門前を左に曲がるともうそこから、
まるで遊歩道の様に明るく整備された道が続いています。
確かに民家や田畑の間を通りますが、迷うことのない一本道、
藤ノ木古墳そのものも、小さな公園の様に整備されていて驚きました。

石室内部は狭いため一度に10人程度しか入れません。
ちょうど団体さんとぶつかったため、40分ほど待ったでしょうか。
その間、ボランティアの腕章をつけたたくさんのスタッフの方に、
古墳のこと、昨年(2010年3月)出来たばかりという斑鳩文化財センターのこと、
それからひこにゃんより昔からいるとご自慢らしい、ゆるきゃら「パゴちゃん」のこと、
たくさんお話して頂きました。

斑鳩文化財センター
http://www4.kcn.ne.jp/~ikaru-i/spot10/ikarugabunnkazaisennta.html

パゴちゃん
http://www.town.ikaruga.nara.jp/syo/item_420.html

111111nara05.jpg



いよいよ古墳内部です。
羨道には、人ふたりがやっとの幅の橋げたの様な通路が組まれていて、
玄室ぎりぎりまでたどっての見学です。
玄室内はわずかな照明ですが充分に見え、4メートルという天井のお陰か広く感じます。
奥に横向きの家形石棺。
わずかに朱色が残ります。
そこで、男性二人の被葬者が確認されたこと、
貴重な未盗掘の発見で、出土品はすべて国宝指定をうけたこと、
それだけの副葬品が出ても、被葬者が誰かの特定はできていないこと、
崇峻天皇陵という説も出たものの、他に有力な候補がある(赤坂天王山古墳)ため確定しないこと、
など、中にふたりいらした係の方の片方がお話してくださいました。

古墳の持つ独特の雰囲気はとても言葉にはできません。
お墓ですから・・・
あばいて土足で「見学」を暴挙かもしれないと感じる気持ちを大切にしながら、
でも、忘れないで欲しいと願いながら逝き、忘れないからと泣いて葬った、
そんな遠いご先祖様たちを、今もこうして忘れないで訪ない、
どなただったのかと問いかけ続けることは、小さく無力な命の連続の中で、
今、できる最大のことなのかもしれないとも思います。



来た道を戻って、法隆寺です。
中門を左に行って回廊の中に入れば、本当にいつ来ても満たされて安心する空間です。
調和がとれているというのか、無用なものがないというか。

まず五重塔。
雨は降っていませんでしたが、薄曇のこの日、明暗差が少ないお陰か、
塔の扉から垣間見る内部の塔本塑像(塔本四面具)、よく見えました。
若い頃はこの群像の良さなどわかりませんでしたが、
今しみじみ見ると、素朴で無慈悲にも見える忽然感で、そこにおさまっています。
手前のわずかな扉と金網で守られただけの小さな空間に、
ただただあり続けた土の像たち。
そのことだけ思っても、ぞくぞくします。

悟りや論説の場面、表現の静かさも凄いと思いますが、やはり、
一番記憶に残るのは、北側の釈迦涅槃図(北面涅槃像土)、
釈迦の今際の際にただただ号泣するしかない僧たちの、
小さな土人形。
胸を叩き、天を仰ぎ、地に伏し、
大きな口をあけて顔をくしゃくしゃにして、吼える様にあられもなく嘆く姿は、
人間の有様を見せて本物の人間以上ではないでしょうか。
小さな土人形の伝えてきたものの大きさに粛然とします。


それから金堂。
「ライトアップ」がされてから初めて訪ねます。
ここも、見学者の便だけを考えた豪勢な照明かと心配したのが、
どこから照らしているのかも一見わからない、ほのかな明かりだったので、
もう今回何度感じたかわからない安堵を覚えました。
色味のせいか平面的に見えてしまうのは、致し方ないことでしょうか。
少なくともまず立ち止まる全員がつぶやいていた「見えない」という愚痴だけは、
封印できていると思いました。
四周の壁画(複製)もよく見えましたし。

・・・もっとも私は、暗さの中じっとしていると、
やがて像が形を作って浮かび上がってくる、あの瞬間が好きだったのですが。


ここの仏像はそれぞれの姿に感じ入るというよりも、
この空間すべてでひとつの感動を与えてくれるものと思います。
ぽっかりと、異空間の眼前に広がる様子は、
見たことはなくても、たとえ想像だとしても、
ここだけに古代の時を留めていると思わせる強い拒絶感で迫ってきます。
決して、踏み込むことを許されない時の空間として。


講堂のあっけらかんとした中を通り、鏡池のある庭?へ。
かつては大宝蔵殿へ直進していたのを、うろ覚えに左のほうへ行くと、
平成10年落成の、百済観音堂のある大宝蔵院への道順が出ていました。
のっけから夢違観音像、玉虫厨子、九面観音像と、極上の宝物が並びます。
中央に百済観音像がいらして、橘夫人厨子、百万塔と百万塔陀羅尼などなど、
他も勿論、こちらの器が間に合わないくらい、素晴らしいものが次々流れこみます。
しかし子供は、もう五重塔時点で辟易としていた様子で、
さっさと進んでしまうのを、大きな声で呼び戻して無理矢理見せてしまいました、
ご迷惑おかけしてすみません・・・。

本物を見せたかったのは勿論見ですが、実は自分が子供の頃、
「玉虫の厨子は玉虫の羽を使って飾っていた」
というのを聞いて、いったい虫の羽をどこにどう使っていたのか、
表面に貼っていたのか?それとも下部を取り巻く虫の甲羅めいたものが羽だったのか?
そもそも玉虫自体あまり見慣れない虫だったこともあり、
さっぱり想像もつかないまま長く疑問でした。
厨子を取り巻く透かし彫りの金具の下に文字通り玉虫色の羽を敷き詰めていた、
というのを知ったのは、成人してからです。
しかし今ここには、実際の荘厳の様子を1区画分ですがきらめかしく再現したものが参考展示してあります。
これを見せたかったのです。
今は黒ずんで落剥の風情漂う厨子ですが、
当初はこのまばゆい金と玉虫色に輝くものすごいものだったと、
子供は想像してくれたでしょうか。


そこから東院へ。
この道はいつも、上原和さんの聖徳太子論の表題「斑鳩の白い道の上で」を思い出します。
渋い紅葉が綺麗でした。

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夢殿では、私が世の中で一番怖ろしい仏像、と思っている、

救世観音像

が秋の開扉期間で拝観できます。
怖ろしいです、ただただ、ぞっとします。
憤怒像でもないし、静かに佇んでいるだけなのに、
どうにもこの怖ろしさは、最初に見たときから変わりません。
不思議ですね。
聖徳太子の等身大像といいますが、デスマスクではないのかと思ったことすらあります。
あまりにも人間そのものなのですもの。
肉食をし、鼻息の荒い、まぎれもない男の人がそこに立っている気がするのです。
しかも、有無を言わさぬ力で迫ってくる。
それはそれは、怖ろしいです。


ここから、最後の訪問、中宮寺へ。
今までの、古代建築を残そう、守ろうとする大寺院に比べて、
昭和の建築が池に囲まれて建つ姿は柔らかに感じられて、
子供も少しほっとした様子でした。
靴を脱いで仏像の前に座ってお話を聞くというのも、
考えてみればこの旅ではじめて。

半跏思惟姿の弥勒菩薩像はやっぱり不思議です。
私にはまだ、はっきりと形を見せてくれません。
好きとも嫌いともなく、荘厳の少ない小さなお部屋につくねんと座ってらっしゃいました。


覚書がわりにと長く書いてしまいました。
今年の奈良は、これでおしまい。
来年中学に入る息子。
おとなしく?奈良について来てくれるのも今回まででしょうか。
何でもいいです、本物の持つ力だけでも、感じてくれていれば。

正倉院展にあわせてコツコツ秋の奈良に通って四半世紀を越えました。
訪ねるたびに、想いが深くなっていきます。

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コメント 2

★ASA☆

法隆寺にも行かれたんですね!
僕はまだ行った事無いんで、すっごく行ってみたいんです。
特別開帳時期からは外れちゃいますが、近いうちに行こうって思ってます^^

藤ノ木古墳の特別公開なんてやってたんですね!
古墳内部に入れるなんて、すごく羨ましいです。
次からは、古墳もチェックしとかないとダメですね(笑)


by ★ASA☆ (2011-11-18 01:33) 

まるさ

♪ ★ASA☆さん、法隆寺、そして斑鳩のほかのお寺、
中宮寺、法輪寺、法起寺など、是非歩いてみてください。
不動の安定感、といった言葉が浮かぶほど、
落ち着けます。
(もっとも、法輪寺、法起寺さんまで歩いたのはものすごく昔ですが(^^;)

藤ノ木古墳は、本当に嬉しかったです。
年に数日とのことで、なかなか予定あわせるのは難しそうですけれど、
いつか是非!
ちなみに、この時はたまたま団体さんと重なったので並びましたが、
普通は1組2組しかいないのだそうです。
なんともったいない・・・というか、それだけ広報がされてないのかもしれませんね。
by まるさ (2011-11-18 10:26) 

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