2011年奈良(2)-正倉院展・興福寺国宝館 [美術館・博物館]
奈良国立博物館
「第63回 正倉院展」
会期:2011.10.29(土)~11.14(月)
訪ねた日:2011.11.5
書いた日:2011.11.14
「第63回 正倉院展」
会期:2011.10.29(土)~11.14(月)
訪ねた日:2011.11.5
書いた日:2011.11.14
東大寺を戒壇院から出て南へ。
風情ある路地を通って依水園へ抜け、そのまま奈良博の正倉院展へ。
途中知事公邸を見つけました、勿論中は覗けませんが、
こんな場所にこんなゆかしい邸宅、さすが奈良です。
到着したのは午後1時頃でしょうか。
なんと、並ばずに入館できました。
25年以上通って休みの日の昼過ぎに並んでいないことなど記憶にありません。
雨とはいえ、大丈夫なのか・・・と、中へ入ればほぼいつも通りの大混雑で、
ついほっとしてしまいました。
遷都1300年祭で螺鈿紫檀五弦琵琶などの出た去年に比べて、
たしかに今年は香木や薬関係、繊維製品と、多少地味に感じても仕方ないかもしれません。
そして、すいている方が鑑賞には良いにきまっています。
でも、長く興福寺との境まで伸びた行列のためのテントが白く雨に打たれているのを見ると、
あまりに人気がなくなるのは哀しいと思ってしまいます。
中に入るなり椅子めがけて走り、座り込んで動かない息子に、
絶対見るよう言い含めて見せたものたちは以下です。
金銀鈿荘唐大刀(きんぎんらでんそうからたち)
質朴と豪華をあわせもつ大刀だと思います。
唐草模様の透かし彫り金具を効果的に配置した金蒔絵の鞘は、
華美になりすぎないおさえた魅力で時の風格を示します。
ほぼまっすぐな刀身は細身で、何故か柔らかそうにすら見えます。
透かし彫りにはまるガラス玉のほとんどが明治の新補だそうで、
往時の実物は如何であったかと、こればかりは残念です。
黄熟香(おうじゅくこう)
「東大寺」の3文字を隠した蘭奢待(らんじゃたい)という名前で有名な香木。
小柄な人の背ほどの長さがある意外と大きなものでびっくりします。
伝来や宝庫に入ったいきさつは不明瞭で、正確に記録に出てくるのは室町時代以降だそう。
各時代に少しずつ切り取った痕跡があり、
足利義政、織田信長、明治天皇の三方は、切り取った場所に付箋が貼り付けてあります。
義政と信長の場所に関しては根拠に乏しく、また、切り取らせたとしても本人の手が入ったかどうか、
それも定かではありませんが、自然木のごそっとしたそっけなさの中に、
多少不器用な四角い切り口があるのを見ると、
確実に誰かが守り残し、誰かが削り取ったという実感が沸いて、
そこに切り取った人が立つような、なんとも不思議な気持ちになります。
近年の調査では、今でも当初の香りを留めているそうです。
生涯に機会があれば、是非この香を楽しんでみたいものです。
七条織成樹皮色袈裟(しちじょうしょくせいじゅひしょくのけさ)
聖武天皇が実際に出家後に使用したと考えられる樹皮状の模様の袈裟。
本来ハギレを縫い合わせて作る出家者の粗末な衣装、糞掃衣(ふんぞうえ)を、
精緻な技術で「まるでハギレをつなぎ合わせたかの様に」織り出したもの。
ハギレをつなぐと言っても今の簡単なパッチワークとは別もので、
不定形に複雑にはぎあわせた様に織り出していて、模様がまるで樹皮に見えるのです。
カタログにその特殊な織りの技法が説明されていますが、
織物素人にはどうにも理解ができません。
美しい模様を織り出しながら、通常の綴織より強度も増したものだそうです。
しかし、この袈裟を見れば織りの技術がわからなくても、
なんと手の込んだ、それ以上に心のこもった織物だろうと、ため息が出ます。
羽織った聖武天皇よりも、帝の御為にと寝食を忘れ命も削って織ったかもしれない、
そんな名前も残らない織り子さんの姿が浮かんできます。
紅牙撥鏤尺(こうげばちるのしゃく)
撥鏤ばちるとは、染めた象牙に極細の線で模様を彫り出す技法。
これは紅く染めてあるので紅牙。
尺とあるのはものさしのことで、儀式用だったと思われます。
紅色の撥鏤尺は宝庫に六枚伝世し、私が特に好きなもののひとつです。
絶対的な品格の下の、自由で可愛らしく、奔放でありながら精緻な模様ももちろんですが、
色が。
この紅い色が物凄く好きです。
どこまでも鮮やかで激しく、見る者の胸をたぎらせるのに、
同時に果て無く深く沈みこんで静謐。
こんな印象的な紅は、蜀江錦とこれでしか見たことがありません。
今回、文書に興味深いものが出ていました。
昨年、明治時代に東大寺大仏の右膝付近の蓮華座下から出土し、
東大寺金堂鎮壇具の一式として国宝指定されていた二口の剣が、
天平時代に正倉院から出蔵されたまま行方知れずだった、
(そして国家珍宝帳に「除物」と付箋がつけられていた)
陽宝剣、陰宝剣に相当することがわかり、大変話題になりました。
その二口の剣が出蔵された時の、天平宝字三年十二月二十六日付けの書類、
それが出陳されました。
人が守り伝えて、今も大切に守り続けているからこその、
1250年ぶりの失せ物発見と、その証拠の品々です。
坊さんや宝物の管理責任者の署名を眺めていると、いろいろ感じるものがあって、
生きることの不思議さにまで思考が飛んで行きます。
息子の中に、何か残るか、何も残らないか、
それはわからないことですが、見せてやれたことだけでも、
感謝します。
遺して伝えて見せてくださった、総ての時代のすべての方へ。
ごちゃっとした写真ですが、カタログとチケット(小学生用)、
それから入り口で頂ける、読売新聞の特別号。
漫画も多用されていて、子供にわかりやすい内容です。
正倉院展を出てからは、いつもの、あの道は名前があるのでしょうか、
博物館の敷地内の、まっすぐ行けば興福寺の東金堂と五重塔の間に出る道を戻ります。
去年は、春(2010年3月)に新装開館したばかりだったせいか、
かなり並んでいたのでやめておいた、国宝館ですが、今年はすぐに入れそうだったので、
途中で抜け道の様なところを右に折れて行ってみます。
子供には「阿修羅に会えるよ!」と言うと、少しばかり興味を示しました。
ここの「リニューアル」も、気になって気になって仕方ありませんでした。
報道で見る限り、あまりに阿修羅中心になってしまっている様で・・・
どれほどの様変わりかとおそるおそる足を踏み入れたのですが、
ここでもまた、浅はかな想像に恥じ入る嬉しい結果に。
入り口も動線もそんなには変わっていないのですね。
何より、あの大きな千手観音像が動いていなかったのでほっとしました。
かつて目線より下に置かれていたことがあった気がする山田寺仏頭も、
居場所を与えられて温かく上を向いていました。
並ばずに入れた割にはやはり中はごった返しで、
最後の部屋に、千手観音と向き合う様に一列に並ぶ八部衆とは、
そんなにゆっくり対峙することは叶いませんでした。
けれど、狭いけれど落ち着いた場所に立つ姿は、安心しているかに見えました。
五部浄だけケースの中で、あの像は光の加減で本当に表情が変わりますが、
今回は、とても思慮深い目をしていました。
何を考えていたのでしょうね。
ちなみに子供は、阿修羅をこれまた憤怒の強烈な像と想像していた様で、
案に相違した(彼と変わらぬ)子供の様な姿だったため、またしても拍子抜けした様子。
本尊千手観音像のほうを気に入っていたようです。
国宝館を出て、興福寺境内を歩きます。
大きな覆い屋に包まれて、中金堂の再建が進められています。
中からは、耳を裂く重機ではなく、木を打つ槌の音が心地良く響いていました。
たまたまそういう工程にあたっただけかもしれません。
でも、なんとはなしに、ゆかしく感じました。
宿泊は久しぶりに、奈良ロイヤルホテル。
http://www.nara-royal.co.jp/
いい加減ユース・ホステル卒業の年齢になった頃、
ホテルなのに天然温泉(大浴場)があるという理由で選んでみました。
平城宮に一番近いホテル、という売り込みですが、今回は窓からの展望のない部屋。
そのお詫びにと、テーブルの上にたくさんのキャンディが置かれていました。
なんでもないことで、なんでもないものですが、なんとなく嬉しいものです。
ここは団体さんを見かけたことがないのも、たまたまかもしれませんが個人客には気が楽です。
スタッフの皆様親しみやすくて、私の様ないかにもお金のない旅行客、
しかも子連れ、などにもあたりが柔らかで居心地がよいのです。
それから、朝のバイキングが予想外に美味しかった^^
古い建物らしくオートロックではなく、部屋着も昔ながらの帯をしめる浴衣で、
今風のホテルに慣れた若い方には不便なのかもしれませんが。
(このホテル、私が利用していなかった間に、
会社更生法をうけて自主再建なさっていたようです。
読んでいるとドキドキしますが、よければどうぞ。
http://www.nara-royal.co.jp/story/)
あの袈裟は、本当に素晴らしかったですね!
模造と比べても、ほぼ変わっていないのにビックリしました。
今回の来場者数は、同会期で歴代3番目に多かったらしいですね^^;
僕も今年は少なめかなぁ・・・って思ってただけに、ちょっとビックリしました(笑)
by ★ASA☆ (2011-11-15 00:10)
♪ ★ASA☆さん、はい^^素晴らしいです!
帰宅してから正倉院の織物という冊子を見てみましたが、
織りかたは本当に緻密で複雑みたいです。
模造品も、制作に3年かかったそうですものね!
来場者数、歴代3位なのですか!
安心していいものか、嘆くべきか、複雑ですね(^^;(笑)。
by まるさ (2011-11-15 16:52)