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2009年・秋旅4(完) 唐招提寺 [寺・仏像など]

奈良大和郡山斑鳩線

奈良県の県道9号は、こんな魅力的な名前で呼ばれているそうです。
wikiによれば、三条大路五丁目交差点を起点として中宮寺東交差点まで、とありますが、
地図で見れば平城宮跡の西端を南下して西の京を通り、
九条あたりで西に折れて郡山城を迂回し、法起寺前を通って法隆寺へと続いて見えます。

近鉄の接続が悪かったのと、朝と昼過ぎの事故でダイヤが乱れていたのとで、
興福寺を出てとりあえず西大寺駅まで来たものの、
唐招提寺へは、降りてタクシーを使うことにしました。
その際、この奈良大和郡山斑鳩線を走って唐招提寺に向かうのです。

主要県道なので狭い割りに交通量が多く、
決して古都の風情を感じる余裕のある道ではないのですが、
それでも、傾き始めた柔らかな秋の陽射しに、
ぽつぽつ残る畑地らしき枯れかけた緑や、
ため池なのか小さな水場がキラキラ光ると、
懐かしい気持ちになってしまいます。

やがて右折して秋篠川を渡るとすぐ、角のところで大きな工事をしていました。
タクシーの運転手さんが、唐招提寺が何か作っている、と言ってましたが、
お寺で確認してこようと思って忘れてしまいました。

今年、正倉院展とともに目的だったのは、興福寺の「お堂で見る阿修羅」と、
平成大修理完成後の唐招提寺金堂を訪ねることです。
11月1日~3日までの落慶大法要の後、4日から一般公開が開始されたのです。



南大門に停滞する団体さんをくぐりぬけて境内に入ると、
懐かしい金堂が。
2000年の秋、工事用の青いビニールシートの向こうに、白く見えた曇天、
あるべきものがそこになかった、あの衝撃から9年。
記憶よりも、少し、少しだけ、本当にわずかに鋭くなったような印象とともに、
また、このまろやかな御堂に巡りあえた。

心急くままに正面柱に駆け寄れば、
その甘やかな丸みさえも大切すぎて、触れることも躊躇われ。
そっと金堂のほの暗い扉内に目をうつせば、
9年の年月など何ほどとも感じさせぬ、三尊の巨きな輝き。
いつもなら「ただいま」とつぶやく所、この日ばかりは「おかえりなさい」と囁いて、
小さく目を閉じ手を合わせ。

その時、ふわりと身を包んだのは、清しい木の香。

大きな柱たちのうち、新しくしたものは背面扉右側の一本だけと聞いた。
他は全て、古材を再度使ったと。
それなら細かい部分の新材の香りだったのか・・・それとも、
1300年前の古木が、大切に磨かれて今また鮮やかに香ったのか。

そしてどれほど千手の手を眺め、
盧舎那の瞳をのぞきこみ、薬師の腹を見ていただろう。
飽きることなど不可能なこの時間に終止符を打つのはいつも、
帰路の新幹線の指定券という無粋さ。
否、現実に生きていかなければならないという、ただそのこと。
さなくばこの吹き放ちの柱の影に、ずっと座って潰えて悔いないものを。


この寺に来たなら、鑑真和上の心意気に、微々も微々たる庶民ながら応えるためにも、
戒壇をだけは覗くように、なんとはなしにそう思って、西へまわれば、
小さな池に、紫の・・・アヤメなのか菖蒲なのか、そんな花がこの時期、
咲いているとも思えないのに、3つ4つ、綺麗に花をつけていた。

取り巻く築地に作られた小さな門越しに見える戒壇は、
黒灰色の寂しい石段で、
上に白い小さな仏塔を、これも寂しげに戴いて、
和上の熱かったであろう想いの、今はこれだけが形なのかと、
やはり、胸の潰れる思いが去来。

けれど、まだよちよち歩きの、小さな子を連れた若い夫婦が、
同じく門越しに覗き込んで、何か話しているのを見れば、
その会話がたとえ信仰とは無縁のものだとしても、
幼子の目の記憶の底に戒壇が沈むのなら、
それだけで和上の想いは消えずに続くのだと、少し明るい気持ちにも。

今年まわったのは、あと、講堂と、礼堂真ん中を抜けて新宝蔵。
御影堂のほうへはまわれなかった。
講堂も懐かしく、あの独特の雰囲気は他には知らないし、
新宝蔵には二度と空へ上がれなくなった創建当初の鴟尾や、
唐招提寺のトルソーと呼ばれる壊れ仏が、
9年前、薄暮れの雨の講堂で私を睨んでいた薬師如来などとともに並んでいる。
靴を脱いであがるこの宝蔵も、人さえいなければ、真ん中で座り込んで、
私はきっと動けなくなる。

後ろ髪を断髪する気分で南大門まで戻れば、
あとは全て諦めて、帰路につくのみ。
ここまで来て、そして西の京駅まで歩いて、それでまた、
薬師寺に寄れなかった・・・こんなことの繰り返しで、
なかなか、聖観音像に再会かなわずにいるけれど、
来春奈良博で開催の「大遣唐使」展におでましになるらしい。
うっかり、そんな時に限って薬師寺再訪してしまわぬよう、気をつけなければ・・・


訪ねた日 2009.11.9
書いた日 2009.11.24

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